『BORN IN THE U.S.A.』のジャケットを飾ったリーバイス 501:80年代の象徴とデニムの変遷
ブルース・スプリングスティーンの『BORN IN THE U.S.A.』ジャケットに写るリーバイス 501。80年代アメリカン・アイコンとデニムの歴史的変遷を文化ジャーナリストが紐解く。
by editorial
『BORN IN THE U.S.A.』のジャケットを飾ったリーバイス 501:80年代の象徴とデニムの変遷
1984年6月4日、ブルース・スプリングスティーンのアルバム『BORN IN THE U.S.A.』がリリースされた。このアルバムはアメリカ国内で1500万枚以上を売り上げ、80年代を代表するロック・アルバムとして、その後のポピュラーカルチャーに indelible(消しがたい)な影響を与えた。そして、そのジャケットを飾った一枚の写真が、時代を象徴するビジュアルとして音楽ファンのみならず、多くの人々の記憶に焼き付いている。写真家アニー・リーボヴィッツが捉えた、星条旗を背景に背中を向けるスプリングスティーンの姿。その腰には、リーバイスの「Red Tab」が確認できるジーンズが写っている。このジーンズこそ、多くの識者やファンによってリーバイス 501と認識されており、80年代アメリカン・アイコンとしてのデニムの地位を不動のものとした、象徴的な存在である。
1. なぜ、彼はスタイルアイコンなのか
ブルース・スプリングスティーンは、その音楽性はもちろんのこと、ファッションにおいても時代を象徴する存在であり続けた。特に『BORN IN THE U.S.A.』期における彼のスタイルは、アメリカの労働者階級や「ブルーカラー」と呼ばれる人々のリアルな生活感を体現していた。着古されたTシャツ、ワークブーツ、そして何よりもリーバイスのジーンズ。これらは、計算されたデザインではなく、日々の生活の中で自然と身につけられる「本物」の衣服だった。
ジャケット写真に写るリーバイス 501は、まさにその象徴である。アルバムのタイトルが持つ「アメリカ」という普遍的なテーマと、スプリングスティーンの飾らない、しかし力強い姿が合わさることで、このジーンズは単なる衣服を超え、アメリカン・ドリーム、あるいはその裏側にある現実を映し出す鏡となった。彼のスタイルは、若者たちが憧れる「クール」さとは少し違う、地に足のついた「タフさ」と「誠実さ」を兼ね備えており、それが多くの人々を惹きつけた理由だろう。
2. 主なデニムシーン:ジャケット写真という原風景
『BORN IN THE U.S.A.』のアルバムジャケットは、この文脈における最も象徴的な「デニムシーン」と言えるだろう。アニー・リーボヴィッツによって撮影されたこの写真は、MoMA(ニューヨーク近代美術館)にも収蔵されている。
写真に写るのは、スプリングスティーンの背中越しに、星条旗が配置された構図である。彼の腰に巻かれたリーバイスのジーンズは、背面から捉えられているため、ボタンフライかジッパーフライか、あるいはパッチのデザインといった細部までは判別できない。しかし、特徴的な「Red Tab」が視認できることで、リーバイス製であることは間違いない。このジーンズは、かなり穿き込まれた、あるいは工業的なウォッシュ加工を経たミディアムからライトウォッシュに近い明るいブルーであり、「リジッド」や「ワンウォッシュ」の状態ではないことが見て取れる。この「穿き込まれた」感こそが、スプリングスティーンが描く物語と共鳴し、見る者に強い説得力として伝わってくる。
さらに、『BORN IN THE U.S.A.』ツアーでも、スプリングスティーンはジーンズを着用していた。ただし、ジュリアンズ・オークションに出品されたステージ衣装としてのジーンズは黒いリーバイスであり、ジャケット写真のブルーデニムとは異なる個体である。このツアー衣装もまた、彼のステージパフォーマンスにおける「日常着」としてのデニムの存在感を示している。
3. そのデニム選択の文化的インパクト
『BORN IN THE U.S.A.』のジャケットに登場したリーバイス 501は、80年代のアメリカン・ポピュラーカルチャーにおいて、極めて大きな文化的インパクトを与えた。
まず、このジャケット写真は、星条旗とブルーデニムという、アメリカを象徴する二つの要素を組み合わせた、強力な視覚的アイコンとなった。これにより、リーバイス 501は「アメリカのジーンズ」としてのイメージをさらに強固にした。特に、80年代には「Made in USA」という文字が、品質や愛国心の象徴として重宝されていた時代背景もある。
また、このアルバムの表題曲「Born in the U.S.A.」は、ベトナム帰還兵の疎外感や社会への怒りを歌った、批評的なメッセージを持つ楽曲であった。しかし、その力強いサウンドと「Born in the U.S.A.」というフレーズのキャッチーさから、1984年の大統領選挙でロナルド・レーガン陣営が選挙演説でこの楽曲を引用し、スプリングスティーン本人がこれを公的に拒絶したというエピソードがある。この出来事は、ジャケット写真の視覚的なイメージ(祝祭的な星条旗の構図)と、楽曲の持つメッセージとの間の意図的なギャップ、そしてそれが大衆に「誤読」されうる可能性を示唆している。スプリングスティーン自身もこのギャップを意識していたと考えられ、この一枚の写真と楽曲の組み合わせは、単なる「愛国歌」ではなく、アメリカ社会の複雑さをも内包する、多層的な意味合いを持つことになった。
リーバイス 501は、こうした文化的文脈の中で、単なるファッションアイテムを超え、アメリカという国のアイデンティティ、労働者の誇り、そして社会への問いかけといった、より深いテーマと結びつく存在となったのである。
4. 着用していたアイテムの詳細
『BORN IN THE U.S.A.』のジャケット写真に写るジーンズは、リーバイスの 501 モデルであると広く認識されている。1984年当時のリーバイス 501の量産品としての一般的な仕様は以下の通りである。
- ブランド: Levi’s
- モデル: 501 (ボタンフライ、ストレートフィット)
- 年代: 1984年頃に米国市場で流通していたモデル
- タブ: Small-e Red Tab (1971年以降の仕様)
- パッチ: Jacron 紙パッチ (1950年代半ば以降の標準)
- リベット: 銅メッキ鋼 (copper-plated steel)。隠しリベットは 1937年から1966年までのみの仕様であり、1984年時点では既に廃止され、バックポケットの補強はバータックに移行していた。
- 生地: **非セルビッジ(non-selvedge)**の広幅織機で織られたデニム。リーバイスは1981年から1983年頃にかけて、量産ラインから赤耳(セルビッジ)デニムの採用を段階的に終了し、広幅織機への移行を完了させていた。Cone Mills White Oak とのサプライ関係は継続していたが、その生産も広幅織機が中心となっていた。
- ウォッシュ: ジャケット写真のジーンズは、穿き込みや工業的なウォッシュ加工を経た ミディアム〜ライトウォッシュ の明るいブルー。
ジャケット写真では、背面からの撮影のため、ボタンフライであること、あるいはセルビッジ(耳)の有無といった、より詳細な仕様を断定することは難しい。しかし、Red Tab の存在、そして当時のリーバイスの量産ラインの標準仕様から、上記のような特徴を持つ 501であったと推測される。
5. 同じ雰囲気のアイテムを今どこで手に入れるか
『BORN IN THE U.S.A.』のジャケット写真に写るような、80年代の「穿き込まれた」雰囲気を持つリーバイス 501に似たアイテムを現在手に入れるには、いくつかの方法がある。
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ヴィンテージショップ: 80年代のデッドストック、あるいはユーズドのリーバイス 501は、国内外のヴィンテージジーンズ専門店で探すのが最も確実な方法である。特に「Made in USA」「small-e Tab」と記載されているものを探すと、当時の雰囲気に近いものが見つかりやすい。ただし、状態の良いものは価格が高騰している場合もある。オンラインストアでも多くのヴィンテージショップが品揃えを充実させている。
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リーバイス ヴィンテージ クロージング (LVC): リーバイス自身が展開する LVC コレクションでは、過去のモデルを忠実に復刻している。80年代の 501を再現したモデルもリリースされることがあるため、チェックしてみると良いだろう。LVCは、当時の生地感やシルエットを再現しており、新品でありながらヴィンテージのような風合いを楽しめる。
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ユーズド・ウォッシュ加工された新品デニム: 近年、多くのジーンズブランドが、新品でありながらヴィンテージのような穿き込み感やウォッシュ加工を施したモデルをリリースしている。リーバイス自身も、80年代のスタイルを意識した「Modern Authentic」シリーズなどで、そうした雰囲気の 501を提供している場合がある。これらのアイテムは、手軽に当時の雰囲気を再現できるというメリットがある。
ジャケット写真のジーンズは、単に「古い」のではなく、スプリングスティーンというアーティストの物語、そして80年代という時代背景と結びつくことで、特別な意味を持った。もし、あの頃の雰囲気を纏いたいと願うなら、単に「501」というモデル名に囚われず、そのジーンズが持つ「ストーリー」や「穿き込まれた風合い」に注目して探してみると、より満足のいく一本に出会えるはずだ。それは、ファッション史の一片を、そして80年代アメリカの魂を、現代に蘇らせる試みと言えるだろう。
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